2019年10月23日水曜日

新卒でPEや投資業務を行うこと

またTwitterの質問箱で、色々と考えさせられる質問をいただきました。


以前の回答で、新卒で投資会社に行くのが正しいのか疑問に思っていると言われていましたが、よければ理由を教えていただけないでしょうか。」


これも泣ける重い質問です。私自身が何度か悩んだり後悔したからです。


この仕事は本当に楽しいですが、同時に本当に難しく、そして重く本当に影響のある仕事です。
 

PEだろうが不良債権投資のようなディストレスト投資だろうが、その裏には投資先の役職員やその家族の人生や、これまでその会社を作ってきた人たちの思いや歴史があります。
 

それを良くも悪くも「変化」させてしまう可能性をそれなりに持っている仕事です。
 

今思えば、まずそれだけの重みのあることを22歳だかそれくらいの大した仕事もしたことがない人間がやることが正しいのかどうか、まずそこから自分には判断が尽きません。
 

私にとっては本当に良い経験でしたが、「良い経験」で済ましてはいけない世界の上で成り立っている自分だと思います。
 

これは答えもないですし、今更どうしようもないですが、振り返っての自分の思いですね。




次に、この仕事は基本的には何でも知っていないといけません。
会社を買収して経営に深く関与するということは、会社の過去と未来を理解し想像し、それに手を加えていくだけの知識・経験・ネットワークが必要です。


新卒の人間ははっきり言ってしまえば何も持っていません。


冷酷に言えば、この世界で誰からも必要とされません。
会社にも投資する側にもプラスはありません。
 

投資先と自分のチームの先輩たちに育ててもらうだけの立場です。


そして、その何も持っていない人から、一人前にこの仕事をしている人の距離が遠すぎて、何をどうしたら追いつけるのかさっぱり分かりませんでした。 



会社をLBOして合併させて、経営陣入れ替えて、事業計画作って、事業展開を支援してとかやっている先輩の横で、「抵当権って何ですか?」とか言ってる人間がいるんです。


当時私は「お前みたいなやつが来ていいところじゃない」と言われたことがありますが、本当にそう思います。
 

私はただただ育ててもらっただけです。


でも、この状況って結構辛くて、役に立ててない、認めてもらえていない、自分が今やっている作業がこの世界の全体像のどの部分か分からない、どうやったらこの人たちに追いつくのかも分からない、という気持ちで、でも毎日深夜まで1-2年働いていたので、何度か辞めようかと思いました。
 

意味不明に金曜深夜に丸の内からお台場まで考え事をしながら歩いて、お台場着いたらカップルたちが砂浜で等間隔にいっぱい座っていて、それを眺めながら「ひょっとしたら人生間違えたかなぁ」と思ったりした日を覚えています。
 

毎月労働時間が400時間とかいってましたし、遊ぶ暇もなかったので、ちょっとおかしかったのかもしれません。


こんな状況でしたが、何とか2年くらい死ぬ気で頑張っていたら何かを認めてくれたとある上司がいまして、幸運にも違うチームの数千億円規模の入札のPE案件に下っ端として呼んでくれたんです。


認められている感覚の無い日々だったので、誘われたこと自体が本当に嬉しくて光栄で、ここで認めてもらうんだという気持ちで死ぬ気で働きました。
 

当然、投資意思決定や事業戦略なんかだと経験がある人には何も勝てません。


ですので、DDをハンドルすること、細かなQAでも全て読み込んで、分からないことを全て調べて追いつき続けること、資料は出来るだけ1stドラフトを自分で作ることを徹底していました。
 

これはあまりに大きな案件で入札が3回に分かれ、最終入札まで6か月に及んだのですが、ずっと全ての情報を把握し全ての下仕事をやり続けました。
 
そうすると、当たり前ですが色々な詳細情報に一番詳しいのは自分になってきます。


各アドバイザーの皆様も、とりあえず気軽にこの若者に連絡をくれるようになりました。


分からないから調べて勉強していた税務ストラクチャーなどをアドバイザーと議論するとき、任されるようになってきました。

だんだん、自分がチームの中心になり始めたことを初めて実感しました。この時、新卒2年目の終わりの春ですね。
 

そしてこの入札は数百億円の差がついて最終入札で負けてしまうのですが、この時のチーム、アドバイザーの皆様とは一生の戦友です。
 

今でもこのときのPwCの皆様とは飲みに行きます。いつもディールの相談します。


MHMの先生方と仲良くなった初めての案件でした。
 

そして、この誘ってくれた上司は、その後他の投資会社の代表になりましたが、15年ほど経ったいまでも飲みに行きます。転職するときにも相談に行きました。
 


私はたぶんこのディールから全てが変わりました。ここで社内でも外部のアドバイザーの皆様にも信頼してもらえる、「結構できる若手」になれたと思います。


でも、これって自分の努力だけだったのかは分かりません。


このチームヘッドが自分を誘ってくれなかったら、今の自分は絶対にないです。
 

誘われたのも喫煙所の雑談からでしたしね。
 

タバコ吸ってなかったら、シニアな人と雑談することもなかったかもしれません。(今はタバコも辞めちゃいました。)


もう一度この社会人1-2年目をやったとして、同じように上手く活路を見出せたのか、全く自信がありません。
 

潰れていた可能性は十分にありますし、PEの方には来ずにずっと不良債権をやっていたのかもしれません。



これ以来、その投資会社では若手戦力としては目立たせていただくようになり、そこからは同じエネルギーで同じくらいの努力をしているつもりでも、成果やネットワークがどんどん加速度的に広がっていき、PEを手掛け始め、そして再び自分の能力不足に気付いてMBAに行ったりしました。
 

ここから先も色々苦労はありましたが、この社会人12年目の絶望感の比でありませんでした。


今ではそれっぽくPEをやっています。

それでも、この世界にいる人たちの大半が経験してきているM&Aアドバイザリーであったり、戦略やオペレーションに関するコンサルティング業務をやったことがありませんので、たまに自分でも「基礎が抜けているなぁ」と思う時があります。
 

それを埋めようと思ったのもMBAに行った理由の一つなんですが、実戦には当然敵いません。


一方、最初っから応用編の投資業務を15年とかやっていることにも当然価値があり、自分の武器はあります。案件の経験数、見てきた案件や投資アセットの幅で言えば、同年代には絶対に負けないと思います。 

だから、自分にとってはこのキャリアは正解だった気もしますし、間違っていたのかもと思ったりもします。本当に今でも答えは分かりません。


こんな経緯ですので、新卒で投資業務やりたい、ファンド行きたい、と言われると、必ず「面白いと思うけど、最初に入ることが一番良い道かは分からない」と答えます。
 

これは、門戸が非常に狭い世界なので入れる時に入った方がいいという考えと、でも本当に大変で辛くて、大成するかは分からないよ、という気持ちが入り混じった親心みたいな回答なのです。

2 件のコメント:

  1. Twitterの質問箱でnegotogatari様の回答お見かけしこちらのブログを見つけてきました。
    この本当に今の自分に刺さる内容で、何度も読み返してしまうくらい感動しました。
    私は異業種からIT業界に入り、現在上流工程の業務に携わらせていただいておりますが
    経験が少ない故周りとの差を嫌と言うほど感じてしまいます。
    なので、
    ”一人前にこの仕事をしている人の距離が遠すぎて、何をどうしたら追いつけるのかさっぱり分かりませんでした。”
    という部分は自分も常日頃から感じていたので読んだときはわかり過ぎて本当に泣きそうになりました。
    もちろんnegotogatari様は当時はもっと若く、PEという非常にハードなお仕事でプレッシャーも労働量も
    現在の私の比ではなかったと思います。
    それでも今の自分と重ねずにはいられませんでした。
    こちらの記事を見つけたおかげで久しぶりに前向きな気持ちになることができました。
    辛くなったらまた読ませていただこうと思います。
    本当にありがとうございます。

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    1. ご丁寧に有難うございます。仕事の内容は違えど、経験が浅い時に難しい仕事に出会うと同じような状況に陥るかと思います。ただ、努力し経験を重ねていけば必ず見える世界が変わってくると思いますので、頑張ってくださいね。

      応援しております。

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