前回に続き、投資業務シリーズ!
今回は前回よりも更にマニアックな... 不良債権投資です。
NPL(Non-performing Loan)とか呼ばれたりもします。
映画や本で流行ったハゲタカってヤツです。
「ハゲタカ」の映画も見てなければ本も読んでないのですが、きっとあまり泥臭い側面は本で描かれていないのだろうと思います...。
私は投資業界に入ってすぐの頃、しばらく不良債権投資を担当していました。
22歳でこのプライベート・エクイティ(PE)やら企業再生やら不良債権やら...という世界に入れて頂いたという信じられないほど幸運な若者だったわけですが、大学生の時に目を付けていたPEという仕事は「お前みたいな金融も事業も経営も分かっていないどころか社会人経験も無い奴には出来ん!」とのことで、まずはもう少し取り組みやすい不良債権投資で勉強しなさい、というのが当時私が入ったばかりの投資会社のポリシーでした。
(PEって何?という方は一つ前の記事でもご参考にご覧ください。)
今思えば大学卒業したての若者にはPEも不良債権投資もどっちも無理だわ、カリン様のところで修業する前にベジータとナッパどっちと戦う?と聞かれてるようなもんだわ(通じますか?)、と思うわけですが、確かに不良債権投資の方が若干取り組みやすく、成長を早めてくれたような気もします。
とは言え、入社した直後は....
「お前だけだぞ、謄本の読み方も知らない奴は。」
「そんなに民法も会社法も知らないでどうやって今まで生きてきたの?」
「質問の意味が分からないから質問できるくらい財務会計勉強しなよ。」
といった温かい指導をいただく日々でした。
とまぁそんな懐かしい想い出はいいとして、不良債権投資とは一体どんな仕事なのかを書き連ねてみましょう。
まずは簡単にイメージするために登場人物を仮定しましょう。
(激しく雑な仮定)
Aくん: 銀行Bから100円を借りている。ろくでなし。全然働かず返済しない。資産価値がありそうなものは銀行Bが担保に取っており10円と評価している不動産のみ。
銀行B: Aくんに100円貸している。「絶対返せないだろこいつ。というか返す気配を感じない。最悪不動産を叩き売らせて10円返してもらうか。」と考えており、その場合を考慮して90円分引当を計上済み(先に会計上の損失を計上しており、銀行内部では10円の価値だと思っている状況)。なお、Aくんはそんなことは知らないので100円返さないとなー、無理だなー、どうしようかなー、と思っている。
投資ファンドC: ハゲタカと言われるが本当は心優しく、エコ精神溢れる投資ファンド。Aくん所有の不動産には10円以上の価値がありそうだと思っており、且つAくんは本気を出せばもうちょっと稼ぐ力があると思っている。
この状況で、投資ファンドCが銀行Bに「不良債権ありませんかー?」と営業に行きます。
銀行は不良債権比率が一定以上になってしまうと金融庁に怒られる等々色々な理由があり、良い値段で買ってくれる人がいるなら債権を売却しても良いと思っています。
そして、Aくんに貸している債権の資料を投資ファンドCに見せて...
銀行B 「これどう?いくらなら買ってくれるの?」
投資ファンドC 「ちょっと資料持って帰ってDD(調査・分析)しますね。」
となります。
で、資料見たり、不動産の評価を自分で見直したり、外部の不動産鑑定士にお願いしたりして、Aくんの返済能力・資産価値を見直します。
その結果... Aくんの所有不動産の価値は20円、そして不動産の価値とは関係なくAくんは本気を出したら年間で少なくとも5円稼ぐことができ、それが3年は続きそうだと思える人だと分かりました。
その情報を持って、投資ファンドCは考えます。
「まず、不動産は無くてもAくんの生活と今後の仕事には支障ないな。良し、いずれ任意売却か競売で売却させよう。交渉や売却手続きを考えて余裕を持って2年くらいの間に20円回収だと思おう。」
「Aくんは3年間で自力で15円くらい稼げそうだな。でも保守的に2年くらいだけ働けると考えて、これで2年間で10円を回収すると思おう。」
「すると、不動産売却と自力返済の合計で、1年目5円、2年目25円の合計30円は返済されそうだ。」
「回収予想額をIRR 20%で割り引くと... 約21.5円だな。」
ここまで来ると話は見えてきますよね。
投資ファンドCは銀行Bへ「20円で買いますよ!」と言うわけです。
すると... 銀行Bは10円だと思っていたものが20円で売却出来るので10円の利益を獲得。
不良債権処理も進んで大喜び、というわけですね。
そして投資ファンドCは債権を購入し債権者となったところでAくんに言います。
「新しい債権者の投資ファンドCです。現在Aくんは100円の借金があるわけですが、どうでしょう、これから3年間で40円返してくれませんか?具体的には、①不動産を2年以内に20円で売却、②年間5円ずつ2年間返済、③そして2年後に他の銀行から10円を借りてきて返済です。③まで済んだところで我々の債権は全て放棄致しますよ。すると、Aくんは2年後には③の借金10円だけの綺麗な体で再出発できますね。年間5円返せる人になっていれば、最後に残った10円の借金もすぐ返せますね。」
ってな感じです。
そして、「上手くいけば40円回収。そこまで上手くいかなくても不動産が売れさえすれば20円は回収できるので損はしないだろ。最低でもDD時の目論み通りの30円は回収したいな。」という発想で投資ファンドは回収/再生フェーズに突入していくわけです。
よって、投資ファンドCは20円で買った債権から30~40円回収して10~20円の儲け、Aくんは100円あった借金が2年間の頑張りで10円になって再出発。
Aくんも銀行Bも投資ファンドCも皆喜ぶ、なんて素晴らしいエコビジネス。
そしてAくんが個人ではなく会社としての債務者A社だったりして、ちゃんとA社の事業再生や不採算事業撤退やらコストカットとかも織り込んで、キャッシュフローの向上と返済額の増額やリファイナンス(上記③のように他から借りてきて既存債務を返済すること)などを考えていくと、ハゲタカ的企業再生案件となるわけです。
大分雑な仮定ばかりですし、もっと色々なケースがありますし、法的整理(民事再生法や会社更生法)が適用されたり、増資を伴ったり、債権を買った上でDES(デット・エクイティ・スワップ)により債権を株式に交換してPE的に事業再生を図ったり... と手法やケースは様々です。
中には当然何の価値も見いだせない債務者もいたりしますが、それはそれでDDで「本当に無価値なのか?」という確認を行い1円で買います。そして、1円で買ってみたら意外と100万円回収出来ました、みたいなこともあったりします。
色々なケースはありつつも共通しているのは、債務者の返済能力の向上や担保資産の価値のアービトラージを狙って儲ける、というのが不良債権投資の根幹になります。
そしてこの仕事、最近は景気も悪くないし銀行の不良債権もさほど多く無いので一時期ほどの盛り上がりはありませんが、私がこの世界に入った2005年頃は鉄火場でした。
まず年間1,000件以上は不良債権のDDしましたね。間違いなく。
そもそもとあるメガバンク一行から出てきた不良債権だけで年間200件とかありました。
そしてそれが全て9月末か3月末に集中。
銀行も自分たちの期末のバランスシートにいくら不良債権が残っているかが問題なので気持ちは分かるんですが、8 - 9月や2 - 3月は本当に地獄絵図。
毎日数十債務者の資料を見て、ひたすら売り手の銀行とQAを繰り返し、不動産鑑定士さんに不動産評価を相談し、企業や個人の財務状況をExcelに纏めて返済能力の試算や向上策を考えたり... ってことを深夜まで繰り返す2ヶ月、という感じです。
特に最初の頃は自分の要領が悪いこともあり、平日は毎日深夜2時に帰宅し、3時に寝て6時半に起きて、8時には会社に来る、休日も土日のどちらかはフルで仕事、月間残業時間は150 - 200時間、というのがスタンダードでした。
まじで辛かったです。
辛すぎて辛すぎて、深夜に築地の24時間営業の寿司屋に行って一人で雲丹だけ食べる祭りを開催してみたり、金曜の深夜2時から会社から2時間歩いてお台場行ってカップル眺めて世を嘆いて帰ったり、という意味不明なことをしていました。
ただ、今振り返るとこの日々があったからこそ、何にも知らない役立たずの若者が1-2年である程度は企業の財務分析が出来、あらゆる業界のことを少しずつ理解し、不動産の基本も分かり、ローンの仕組みや銀行の方々との接し方なども学ぶことができ、という基礎体力が見に付いたのだと思います。
なので、最初に不良債権投資を通じて投資業務のベースとなる知識や勘所を身に付けられたことに多いに感謝しています。
ということで... 不良債権投資も中々面白いですよ。
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