私がこの業界に入った又は入ろうとしていた2000年前半~中ごろには知っている人はかなりレアだったのですが、最近は結構有名になってきているように思います。
とは言え、まだまだマニアックな仕事なので、凄い簡単に説明すると....
1. 会社に投資する
2. 会社をより良くするために頑張る
3. 良くなった会社を上記1.より高く売る
という仕事です。
こんな二郎の社訓よりも短い纏め方をすると簡単そうに見えますが、まぁまぁ大変で頭も体も使うしプレッシャーもあるし、でも面白い仕事です。
(ラーメン二郎社訓はこちら。二郎の味が乱れると宇宙に影響がありますので皆さん二郎を大事にしてください。)
今日はPEとは何か、そしてそんな仕事にMBAがどう活きてるのか、という話を。
先ほどはPEの仕事を死ぬほど簡単に纏めたわけですが、もう少しPEの業務をステップごとに分解しながらMBAとの関係性を見て行きましょうか。
なお、私はMBA前からこの仕事をしていたため、MBAを経たことでの「レベルアップ」という観点が強く、MBA後に初めて取り組む、といった観点は少し乏しいかもしれません。ご容赦ください。
(1) ソーシング/オリジネーション
投資対象企業を探してきて案件化することをソーシングとかオリジネーションとか呼んでいます。簡単に言えば案件を取ってくることですね。
ここではMBAのネットワークが活きてくることがあります。
MBAを経て、受験仲間やMBA卒業生、受験当時の在校生や留学先の友達、とネットワークがいきなり拡大します。
その中できちんと関係を保っていると、皆仲良いので気軽に仕事の相談をしてくれたりします。
これはPEに限らないでしょうね。私もVCやってるMBAの友達に起業した友人を紹介したり、自分のPE案件で戦略コンサルで働く友人経由でコンサルタントチームを雇ったり、と色々あります。
PEには難しそうなイメージがあるかもしれませんが、ただ「色んな人と協力して投資先企業を発展させる仕事」という感じですので、信頼できる人との繋がりが大事なわけです。
なお、MBAに行く前でも特定の投資銀行、銀行、M&Aブティックファーム、コンサルタントの知り合いからの案件紹介はありましたので、更に厚みと幅が広がった感じでしょうか。
最近もHBS出身の友人から、彼のHBS同期が関係する案件を紹介頂いたりしました。
先月には、他のPEファンドのディレクターにマーケティング戦略の相談相手が欲しいと相談され、マーケティングで有名なKelloggの卒業生を紹介したりもしています。
また、案件獲得の最大のポイントは、売り手又は投資候補先の偉い方々が「このPEファンドなら」、「この投資担当者なら」と気に入ってくれることだったりもします。
なので、MBAというCredibilityやその過程で得た人間力等、その辺りでもMBAは見えない形で力になってくれているように思います。
(2) スクリーニング/初期的検討
来た案件何でもやってればいいってわけではありません。
別の機会があればまた語りますが、私はPE以外にも色々な投資をやってきたので、PEに特化している人ほどはPEの案件を多くみていないと思います。
それでも年間数十社は話を聞いたり、ちょっと調べたり、関係者と協議したりはしています。
更に多い案件数や規模を誇るようなPEファンドのメンバーは、おそらく各担当者が年間100件とかそれ以上を初期的に検討していると思います。
で、それだけ見ても投資するのは年間数社程度。その数社のために思いっきり100社以上の案件に時間を割くわけにもいきませんので、最初のスクリーニングはとても大事なのです。
で、その時に活きると個人的に思うのはMBAの総合力や俯瞰的な物の見方だと思います。
MBAではストラテジー、マネジメント、マーケティング、オペレーション、ファイナンスといった経営の主となる要素を一通り習います。
その主要なファクターをそれぞれ大きな観点で見直すことで、「この案件は更に時間を費やすほどに魅力的かどうか」ということが見えてくる、と私は思っています。
経験上、細かなFinancial Model(Excelで膨大な計算を組み込んだ事業計画)が投資の本質を決めることはあまり無く、例えば、業界は成長するか(又は安定しているか)、SupplierやBuyer側にPowerがあり過ぎて利益を出し難い構造には無いか、代替商品や破壊的な革新が起きるリスクはどの程度か、新たな市場参入者は増えやすいのか、どの部分に企業価値向上の余地があるのか、といった基本的な戦略論の方がよっぽど重要だったりします。(そしてこれを見落としたり、過信したり、という後悔も過去にあります。)
こういった主要なファクターをざっと見直し、そして投資検討先の売主や現経営陣の希望している投資の目線(価格・金額)や条件が案件の魅力に見合っていそうか、を簡単に検討するには、MBAで得たベース知識は打ってつけだと思います。
(3) 条件検討 / 基本合意
案件の進み方によりますが、初期的に買い手(PEファンドや投資家)が面白いと思い、大まかな条件面で売り手(and/or 対象企業そのもの)と合意できた場合は、基本合意書(MOU: Memorandum of Understanding)と呼ばれるものを締結してから後段のデューディリジェンスに入っていくことがあります。
入札案件ですと、初期的条件を提示し、売り手側が気に入った投資家だけが先のステージに進んでいくこともあります。
この基本合意のステージや条件検討においては、個人的な意見としてはMBAの力が活きるというよりは、経験値の方が重要かもしれません。
金融スキルや契約書交渉といったかなり実務的な面が強くなりますので。
ただ、最終的な買収金額や条件を考えるに当たっては、上記(2)で検討した全ての要素を踏まえてモデルを作ったり、契約書の条項を作っていったりする必要があります。
ですので、ここでも総合力という意味では当然MBAの経験も活きてきます。
(4) デューディリジェンス(DD)
ここまで来ると、投資家側も真剣に投資/買収したいと思っており且つその実現性も上がってきていますので、外部の専門家を雇って更に細かな調査・分析を行って行きます。
その際にほぼ毎回実施するDDとその専門家は以下の通りです。
- 財務・会計・税務DD: 会計系ファーム(BIG4のアドバイザリーチーム等)
- 法務DD: 弁護士事務所(四大弁護士事務所や会社法関連に強い中規模事務所等)
- ビジネスDD: 大手戦略コンサルティング会社や該当業界の専門コンサルティング企業等
さらに大型案件であれば、これらを全て統括し案件全体を仕切る役目として、投資銀行等の全体的なアドバイザーを雇うこともあります。小さな案件だとその役割はPEファンドの中堅レベルの人間が担うことが多いです。(私は大抵自分でやっています。)
ポイントとしては、上記の通りそれぞれの分野で専門家を雇っている、ということです。
つまり、本当に細かなことは専門家に相談し調査・分析してもらえば良いわけです。
PEファンド側の投資担当者として求められることは、そのDDの方向性を正しく見極め、様々な観点から専門家と共に投資戦略を練ったり、リスクをピックアップしながら分析したり、その解決策を練ったり、という役割です。
MBA活きそうですよね?
また、このDD期間中に投資後の経営体制についても検討していくことが多いです。
例えば、オーナー企業のオーナーさんが売り手のケースなどでは、創業家が一気に身を引くことがあります。
大手企業グループの子会社売却の際も、親会社からの出向者が一斉にいなくなることもあります。
そういった時には、DDで浮かび上がってきた投資戦略や必要なポジションに合わせて、新たな経営陣を外部から探してきて送り込んだりすることもあります。
こういう時も、信頼できるネットワークとしてMBAが活きたりします。
自分が信頼できる人自身、又はその人の紹介で見つけた経営陣の方が安心して任せられる、というケースもあると思います。(そう簡単に見つからなかったりはしますが)
(5) エグゼキューション
実際に投資を実行することをエグゼキューションと言います。
具体的には企業への投資や買収の諸手続きを完了させるために、契約書を作り上げて行ったり、TOB(公開買付)が必要ならばその手続きをやったり、レバレッジを掛けた投資であればLBOローンを組成したり。
この辺りはMBAのスキルではないので、実践で学んでいくか、投資銀行、弁護士事務所等のアドバイザーにサポートしてもらう感じです。
なお、慣れてくると、投資家としての判断やイシューを契約書に落とし込みつつ、自分で交渉しながら契約書をどんどん修正していったり、という感じになってきます。
(6) 投資後のバリューアップ
ここです。ここがMBAの一番の活かしどころです。
簡単に言えば、上記DDで一生懸命考えた会社を良くするための戦略を経営陣と一緒に実行に移していくわけです。
でも、まぁほぼ間違いなく当初思った通りにはいきません。
何か想定外の事象がいっぱい起きます。
やってられないくらい問題が多発します。
そんな中、自分が経営陣に入っているのか自分達が送り込んだ経営陣がいるのか、経営への関与度合いはケースバイケースですが、やらなくてはいけないことは同じです。
「関係者に協力してもらって皆で会社を良くする」
それだけです。
どんな企業も誰か一人だけの力で良くなっていくことはありません。
PEファンドの担当者の役割は、良い経営者と経営戦略を準備し、経営陣や会社の皆様にそれを実践してもらうべくサポートし、何か問題が起きるたびに都度それに合わせて投資戦略・経営戦略を調整しながら、関係者を上手く動かしていく... こんな感じです。
そして、当たり前ですが会社の経営に関わっているのであらゆる分野のイシューに触れることになります。
人間力と総合的なスキルと経験で、色んな人と協力して会社に価値を与えていく。まさにMBAスクールが教えようとしているものを実践する日々になります。
授業で習うほど簡単にはいかないので、悪戦苦闘するわけですけどね。
(7) Exit
最終的に投資対象企業をM&Aで売却したりIPOさせて市場で株を売却することで投資資金を回収することをExitと呼びます。
M&AやIPO以外にも投資先に自己株買いをしてもらうケースなどもあります。
ここで最も求められる技術的なスキルはM&AやIPOに関するものですが、この辺りは投資銀行なりアドバイザーを雇うことが多いです。
そのため、投資ファンド側は投資先企業のことを誰よりも分かっている大株主兼経営陣の一員として、そういったアドバイザーを上手く使いながら、より高い企業価値を実現させるために動くわけです。
M&Aでの出口となれば、次の買い手を見つけてくるネットワークや戦略的思考・着眼点が重要でしょうし、IPOとなれば機関投資家・個人投資家に訴えかけるようなエクイティストーリーや業績の堅調さ・アップサイドを見せられるのか、といった点が重要になってきます。
この辺りも「MBAで学んだこれが活きる」という特定のスキルというわけではないですが、MBAは総合的な下支えになっている経験だと思います。
こんな感じでPEとその中でMBAがどう活きているのか、少しはイメージが伝わっていると幸いです。
なお、別にMBAなんかなくてもPE上手くやってるわ、という方もいると思います。
何の異論もありません。
そもそもMBAなんて、元々英語で仕事することに何の障害もなく、経営全般のスキルは自分で身に付けたよ、ネットワークも自分で広げるわ、っていうPEファンドの人にはあまり意味は無いかもしれません。
そういった部分に不安があり、それらをしっかり備えてからこういう世界で勝負したい、という人は是非MBAを取って、PEの世界に挑んで頂ければと存じます。
ちなみに私の場合はPEを含む各種投資業務を22歳から28歳まで6年間やってからMBA留学したわけですが、留学前は...
- 海外経験ない。英語話せない。外人対応不可。英語の契約書読めない。投資先企業で海外事業とかあると何のセンスも発揮できない。すーぱーどめすてぃっくな若者。
- マーケティングとかあまり意味が分かっていないが知っているフリをするしかない。オペレーションはThe Goalを読んで分かった気になっている。というか若すぎて見えてない世界があまりに多かった。
- 金融、コンサルの知り合いしかいない。それ以外はあまり仲良くなる機会も無かった。
という人間でした。
うーん。自分で書いてて本当にMBA行って良かった、と思いました。
Kelloggありがとう。
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